移住者の声

いいトコ
voice
13

この場所の土で育った種を採る

うたか自然農園
福島吉隆さん

Profile

●1982年神奈川県生まれ。愛媛県でのミカン農家手伝いを経て、和歌山県で自然農法を学び、奥様詠子さんの故郷岩手へ。紫波町で2年間農業を営んだ後、2018年に花巻へ移住。
●うたか自然農園
岩手県花巻市石鳥谷町大瀬川16地割99−2

2023年取材(内容は取材当時の情報)

家を持つと信用を得られる

見渡す限りの田園風景の中に福島さんの家と田んぼがあった。
「すぐ近くに畑もあります。今の時期は大根、カブが育っています。ニンジンやジャガイモ、ピーマン、ナス、万願寺とうがらしなど、およそ30種類の野菜を作っています」

終始ニコニコしながら語るのは、花巻に移住して4年目の福島さん。
無肥料、無農薬の自然農法で作られた作物は、マルシェなどにも出品していて、定期的に直接購入するファンがいるほどの人気だ。

岩手に来たのは6年前。肥沃な畑を探して北上川沿いの畑を探し、目指す農業の方法を紙に書いて役場などにプレゼンして歩いたという。ようやく見つけた紫波町の畑も、自然農法への地主の理解を得られず、2018年に定着できたのが花巻だった。
「空き家バンクで家を買いました。それが大きかった。家があることで信用されて畑も借りやすくなりました。地域の人たちも厳しいながらとても優しい人ばかりです」

自然農法との出会い

生まれたのは神奈川県だが、父親の実家が農家でよく遊びに行っていたという。
その時の印象は「農薬の匂い」だったそうだ。その時は「農業とはそういうもの」という理解の仕方だった。
高校を卒業後、山小屋をはじめとして様々な仕事でお金を貯めては旅に出ていたという。
インド、ネパール、タイ、カンボジア……。それぞれの地に1~2ヶ月ほど滞在した中で目にしたのは、自分の畑で作った作物を道端で売っている農家の姿。自給自足を基本とした、そんなシンプルな生活に憧れた。
ちょうどその頃出会った農学者福岡正信の本で自然農法を知ることとなる。

地元の神奈川県で知り合った岩手県盛岡市出身の奥様詠子さんと結婚後、愛媛県のミカン農家の手伝いを経て、和歌山県の橋本自然農苑で2年間自然農法を学んだ。その間に息子が生まれたこともあって、詠子さんの故郷である岩手へ移住しての就農を計画したのだという。

福島さんが師匠と仰ぐ橋本自然農苑の橋本進さんは「土がきれいになれば世界は平和になる」を唱えた。
「人間の幸福は大自然から謙虚に学び、大自然の摂理と調和した『自然尊重』『自然順応』の生き方から生まれる」という教えをもとに、「土の力こそが大切」は今福島さんの農業のコンセプトになり、さらにその土で育った作物から種を採って循環させている。
「この地で採れた種は、ここの気候を記憶してくれるのです」

野菜に人格を感じ作物が持つ力を語る。

土に触れ足で感じる農業

春から秋はひたすら農業に従事し、冬はアルバイトする生活。そんな暮らしも花巻ならではの便利さがあると言う。
「近くのたくさんの温泉でそれなりに求人もあるし、除雪作業もあるから仕事には困りません。除雪は降雪次第で勤務時間が不規則で大変ですが(笑)」

農閑期の冬にも遠くに働きにいく必要がないというのは、家族を大切にする福島さんにとって大きい。子どもも田園地帯の自然の中で伸び伸び育っている。地域の集まりや近隣の農家との付き合いも4年ですっかり馴染んでいる。
ただ、やはり気になるのは周囲の農家の高齢化。もっと若い人たちの就農を期待しているが、周辺では農地の大規模化のための土地改良計画が進む。
「確かに機械や化学肥料、農薬などを使って生産効率化を図るには良いのかもしれませんが、無肥料、無農薬で手間をかけて農業をやっている人間としてはどうしようという感じです。それと、田んぼの大規模化は、そんなに広い土地を最初から耕作できない若い人の就農のハードルを上げる。遊休農地がなくなって新規参入できなくなることが心配です」

収穫よりも採種の方が自分にとって大事だという福島さん。野菜の花も愛でながら、土に触れ、足で感じる農業の仲間も増やしたいと願う。これから藍あいを育ててみたいと、また笑顔で語ってくれた。

移住・定住ガイドブック「花巻ひと図鑑」より